白いカンガルー
オーストラリアで白いカンガルーを観たのでアップしたい。上はオーストラリア、パースのカバシャム動植物園で撮影したもの。
こんな風に、自然な動作などは普通のカンガルーと変わらない。この白いカンガルーは、品種があるわけではなく、突然変異という話である。
このように他のカンガルーと仲良く餌を食べている。普通、このタイプの突然変異は早く死んだり、何らかの障害を持っていることも稀ではないが、結構、健康らしく子孫も残している。白いカンガルーの数がそこそこ多かったのである。
子供の白いカンガルーと、大きな親のカンガルーがいる。カンガルーは餌を食べる時、奪い合いをするなど他のカンガルーと喧嘩をすることはない。平和的な動物だと思う。
ボクサーになるのは縄張りとかメスカンガルーを他のカンガルーと取り合う時なんだろう。
家族内の疾患バランスについて
単科精神科病院に限らないと思うが、精神科医はある家族の中の数名を並行して治療することがある。例えば、親子、夫婦、兄妹、孫とその祖母などである。一方、家族でも主治医が異なることもある。
僕の場合、例えばある患者さんが「娘も精神科の病気と思うので診てほしい」と希望した際に、それを引き受けて診始める流れが多い。このような希望は断りにくいのである。
このようなケースでは、それまで家族を診ているので概ね家族関係がわかっているし、遺伝子の関係もあるのかフィットする薬が似ているので、効率的に治療ができることが多い。疾患が異なっても同様である。試行錯誤が少なくなるため、患者さんにとってもメリットが大きい。
ある時、エビリファイ(アリピプラゾール)やレキサルティが合わない男性を治療していた。ある日、その患者さんが娘がある病院で治療しているが、診てほしいと希望されたのである。
このようなケースは、既に他の病院で治療が続いているわけで、引き受けるのはそれなりに決断が必要である。初診なら簡単に引き受けられるが、既に治療が始まっている場合は、そういう風には思わないのである。
と言うのは、以前より良い結果が出ないといけないと言った気持ち的な縛りが生じるし、病院にもよるが、患者を引き抜く感じになるので、その方も少し気になる。
しかし僕が診始めて、以前より悪化するようなことは確率的にかなり低いので、心の底では転院して治療した方が良いとは思う。転院したが、さほど改善しないか、あまり変わらないと言うのはたまにある。
その娘さんは、なんとエビリファイで治療されており、それを漸減中止し、ラミクタールを併用したり、抗うつ剤を整理(ほぼ中止)することで、就労できるまでに改善した。
普通、精神科医はエビリファイやレキサルティで治療されていると、現代的というか最前線の医療をされていると錯覚するが、そう思うのは迷彩である。彼女の場合、合っているのかそうではないのか曖昧なレベルでフラフラしていたから、わかりにくかったのだと思う。
おそらく、父親のエビリファイ不適切と言う情報がなかったとしても最終的にはエビリファイを中止しているような気が非常にする。その中止するまでの時間が短いかどうかの差はあると思うので、そこが患者さんにとってのメリットなんだろう。
ちょっと状況が違うが、診察中に例えば娘さんが地元の精神科病院にかかっているが、調子が良くない話を聴く場合。その患者さんは車で40分以上、それも高速道路も使って通院しているのである。その患者さんが僕に娘さんの治療を希望するならともかく、こちらからは「診てあげましょう」なんて到底言えない。その男性は驚異的に改善しており、普通に仕事をされていてもそう思うのである。
その娘さんは良くなるとは思うが、毎回来院するのに身体的な負担が大きすぎるからである。
それでもそういう人がたまにいて、その女性患者さんは朝5時台に起きて、6時くらいの電車に乗り、やっと12時前にうちの病院に着く。地方では、東京都内のような交通の利便性はないのである。
そのような経緯で、家族内の数名を診るというようなことが良く起こる。同じ疾患のこともあるし、異なる疾患のこともある。
今回の記事は、そのようなケースで精神疾患がどのように変化するかの話である。
例えば、ある年配の男性を診ていたとしよう。依頼されて娘さん(既に成人している)の治療を始めて、次第に以前より改善してくるにつれて、なぜか依頼した父親の精神症状が以前より改善するのである。
これは様々な考え方ができると思うが、1つは「父親なので自分がしっかりしないといけない」と言う気持ちの変化もあるように思う。つまり、気の持ち方が、疾患の重さに影響していると言える。
ちょっと異なる考え方は、娘さんのメンタルヘルスの不調が本人のストレスになっていて、娘さんの改善につれてそのストレスから多少解放されて本人の安定に繋がっていると言うものである。
ところが、夫婦はそういう風にはいかない。過去ログに「配偶者の自殺」という元々ボツ原稿だった記事がある。
この記事の中では、精神を病んでいる人の配偶者は、精神的にしっかりしているように見えてもそうでもないと言う話が出て来る。
親子と夫婦のケースで経過が異なるのは、夫婦は血縁がないし、配偶者が次第に安定することで、心のバランスが崩れる(緊張感が緩む)ことがあるのだと、今はそういう風に理解している。
(終わり)
精神科病院内でスマホが繋がらない場所と院内Wi-Fiのことなど
これはずっと以前から思っていたことだが、民間の精神科病院はそこそこ広いために大手キャリア(ドコモ、au、ソフトバンク)でさえ、スマホの着信ができないことが良く起こる。
僕のスマホは、ここは繋がらないわけはないだろう!と言う場所(目の前に道路挟んで民家が密集)で携帯が着信しない。結局、直接病棟に電話がかかってくる。これは看護師さんが、携帯電話が繋がらないということは多分この病棟にいると予想がつくからである。
普通、中核病院では、院内通信ではたぶんピッチ(PHS)を使うことが多いと思うが、常時携帯電話を2つ持つのは重いため、それを拒絶し、直接自分のスマホにかけてもらうことにした。大荷物で仕事をしたくない。携帯電話は重いのとでかいのは悪と思っているので、未だに僕のスマホはiPhone13miniである。院内通信に個人の携帯を使うのは、多分、この方がコスト的にも安価と思うからである。
僻地にある超絶大規模な国公立の精神科病院は広すぎて、院内で携帯電話が繋がらないことはよくあった。そういうこともあり、かけたい時は場所を変えて発信していたのである。
精神科病院内でも中心部ではなく辺縁なら普通に繋がりそうである。しかし繋がらないのである。病棟看護師さんに聴くと、au、ソフトバンクは普通に繋がるらしい。NTTドコモ大丈夫か?
かくして、後でメッセージを見てみると、何回かうちの病院の電話番号の着信履歴が残っているのであった。
おそらく天候のせいであろうが、その場所でも稀に携帯が繋がることがある。10日に1回くらい。それでも相手の声は聴こえるが、こちらの声が相手に伝わらないという不十分な繋がり方である。
他、繋がらない場所は、病院のほぼ中央にあるトイレの中である。それ以外はほぼ繋がる。
そういえば、病院にもよるが、最近は院内Wi-Fiが使えることが増えてきた。かつて、他病院に措置鑑定とか、医療観察法の鑑定にでかけると、外来にWi-Fiのパスワードの記載があった。つまり患者さんは院内Wi-Fiサービスが受けられるのである。これはその病院の患者さんの平均年齢も関係があると思った。その鑑定に行った病院は、中学生から大学生の外来患者さんが多いのである。この病院ではニーズも大きいのだろう。
当時は、うちの病院はそれができなかったが、新型コロナパンデミックの頃から院内Wi-Fiが患者さんにも利用できるようになっている。
しかし、友人のクリニック(精神科・心療内科以外)では、Wi-Fiを使えるクリニックは全くない。クリニックはそこまで院内Wi-Fiは普及していないのでは?と思った。
うちの病院が院内Wi-Fiを整備した理由は、家族のタブレット面会のため必要に迫られたからである。つまり外来のスペースと、病棟の一定のスペースにWi-Fiが繋がる場所があった方が良い。そのために各病棟にWi-Fiが使えるように工事を行ったのである。
これも病棟全てではない。たぶん病棟でもナースルームから離れた場所や、ベランダ、保護室内などは繋がらないと思う。
今のところ、タブレット面会以外の外来患者さんの院内Wi-Fi利用率はかなり低いと思う。患者さんの平均年齢が高いこともあるだろう。
ツムラ漢方防風通聖散と小林製薬のナイシトールZ
最近、ツムラ62、防風通聖散エキス顆粒の供給停止のアナウンスがあった。以前もツムラの漢方薬がさまざまな理由で供給が滞る話を紹介している。
上のリンク記事の中でも防風通聖散の話が出てくる。以下は抜粋。
新型コロナパンデミックの際、風邪症状に有効な漢方薬の需要が爆発的に増した。その際、ツムラは生産ラインをこれらの漢方薬に動員したため、風邪と関係がないか薄い漢方薬の生産量が減り納入が難しい時期が続いたのである。
特にうちの病院では防風通聖散(ツムラ62)が不足する事態になった。防風通聖散は、一般に便秘に処方される。やせ薬としても人気が高いため、全国的にはそこそこ処方される漢方薬である。実際、効能効果には、肥満症、むくみが挙げられている。
今回、ツムラ防風通聖散を購入できない時期、クラシエやオースギの防風通聖散に変更して処方してみたところ、ツムラに比べオースギの防風通聖散の方が、便秘に関してはより効くことがわかった。患者さんがそう言っていたからである。
ツムラの国内の工場は茨城県と静岡県にあるらしく、2011年の東北地方太平洋沖地震の際には茨城県の工場が被災して、いくつかの漢方薬が不足する事態になった。
今回の供給停止措置は復旧が早く、5月中旬には解除されるらしい。
元々、防風通聖散は便秘の薬だが、肥満症にも効果があるとされている。だから、多くの便秘症向けの漢方の中でも人気があるのである。今回の供給停止措置には、小林製薬の紅麹事件が関係しているように思われる。上に挙げたツムラのお知らせにも、4月から急激な需要増があり、生産能力が追いつかないと記載されている。
実は、小林製薬はナイシトールZと言う防風通聖散を含む市販薬を発売している。
上のリンクには以下のように記載されている。
ナイシトールZは18種類の生薬を配合した漢方処方
「防風通聖散」を用いた、肥満症を改善するお薬です。
【製品特徴】
・内臓脂肪を分解燃焼し、肥満症を改善します
・脂肪を燃やし、余分な脂質を便と一緒に押し出します
・生薬量最大の28,000mg処方を用いた濃縮エキス!
※日本薬局方防風通聖散エキス内
「防風通聖散」を用いた、肥満症を改善するお薬です。
【製品特徴】
・内臓脂肪を分解燃焼し、肥満症を改善します
・脂肪を燃やし、余分な脂質を便と一緒に押し出します
・生薬量最大の28,000mg処方を用いた濃縮エキス!
※日本薬局方防風通聖散エキス内
つまり、ナイシトールZを服薬していた人が、小林製薬の紅麹事件により不安を感じ、ツムラ防風通聖散に流れたのではないかと。ツムラの方も防風通聖散は良く売れる漢方薬なので、早急に対応し一時供給が滞るが、約1か月くらいで増産可能な体制が整うと判断しているのであろう。
参考
28歳くらいの梅毒の患者
今回の記事は、僕がまだ31歳頃遭遇したものである。驚愕すべき臨床体験。
ある28歳の男性患者さんは、梅毒に罹患後、症状が出たものの中核病院で治療を終えていた。その時は既に梅毒トレポネーマは体内にはなかった。
この患者さんの不思議なことは、まだ感染後2年くらいしか経っていない上、梅毒に対する抗生剤治療も完全に終わっているのに、精神が既に荒廃していたことである。
いつも保護室で診察していたが、いつも無苦慮にへらっとした印象で、よくポケットに大便を詰め込んでいた。おかげで指と爪の間には便がつまり悪臭を放つような状態である。
統合失調症の人にも弄便が診られることがあるが、実際にはそのレベルまで荒廃する人は稀であり、そう診られるものではない。過去ログに便だらけになる患者さんの話をアップしている。
このセンテンスの最も器質性疾患っぽい(つまり統合失調症らしくない)ポイントは、「へらっとした印象」だと思う。
とにかく、回復する見込みがなかった。
ところが、民間精神病院は自院の重症の精神病患者は、他病院に転院させにくいと言う心理が働く。
その理由は、民間精神病院は常に一定数の処遇困難な患者を持っていて、ある種の民間精神科病院全体で苦労を分かち合うという暗黙の了解のようなものがあるためである。そもそも自分の病院でここまで悪化した患者を他病院に押し付けるのは気の毒というのもあるし、心証も悪く今後の病院間の関係にも影響する。それが簡単に許されるなら、自分の病院は精神医療の楽な良いとこ取りだけしている感じになる。
そのようなこともあり、余程の理由がないと、この記事に出てくるような重症の患者さんは他病院に転院などさせられない。
当時、この男性患者は、時間的には梅毒の四期のはずはないが、何らかの免疫的な脆弱性があり、このような荒廃に至ったのかもと思っていた。それが正しいかどうかはともかく、梅毒の最終病態はこのようなイメージだったからである。
既に四期の梅毒患者はなかなか診られない年代になっていたこともある。
そして、「梅毒の四期であるはずはないのに、極めて特殊な病態を呈している」とのことで中核病院か、あるいはもう少し施設が整っている大規模な民間病院に転院させることになった。そのあたりは、僕は主治医ではなかったので経緯の詳細は知らない。
その患者さんはその後も経過は良くなかったらしい。「この良くなかったらしい」という期間は数ヶ月であり、その後の詳細は全く知らないのである。
その後、僕は毎週リエゾンをするようになった。僕は医療観察法の仕事とリエゾンは非常に縁があり、延べのリエゾンの経験年数は精神科医のキャリアから比してもかなり多いほうだと思う。そのようなこともあり、稀な症例を経験している。
その梅毒患者さんに極めて似た症例を後に数度、リエゾンの現場で経験することになったのである。例えば、この梅毒の男性患者さんに似た病態のある女性の基礎疾患はSLEであった。
今から考えると、その若い梅毒の患者さんは身体疾患に由来するカタトニアだったと思う。
カタトニアはGoogle検索すると狭い範囲の概念しか記載されていないので、それは違うだろうと思うかもしれないが、こういう病態もカタトニアと言って良いのである。ポイントはカタトニアは症候群であり、原疾患は必ずしも同じ疾患ではないことであろう。
このように考えると、当時の治療のベストの選択肢はECTであった。病状の規模的に1択と言って良かった。
しかし、当時それを見抜くことができず治療機会を逸してしまい、しかも他院に送ってしまったのである。
彼は、今も残念に思う患者さんの1人である。